大自然に包まれ、解放された空間の中で、まさに古来の観劇スタイルそのままに、境内にゴザを敷き、ご馳走を食べ、酒を酌み交わしながら芝居を楽しむ。大きな見得や力のこもった所作が続くと、声援にも思わず力が入り客席がどっと沸きます。舞台と客席が一体となり、地芝居の何ともいえぬ魅力が生まれます。芸能の原点である「心と心が触れ合う場」を生み出す大鹿歌舞伎の舞台には、熱く、豊かな地芝居のいのちが脈々と息づいています。



▲市場神社の舞台(塩河)。嘉永4年(1851)建立。


▲大磧神社の舞台(下市場)

 全国各地の地芝居を伝える村の中でも、大鹿村はその舞台の数の多さで抜きんでています。かつて、小さな集落の氏神の祭りに、わずかな戸数の集落だけで歌舞伎を上演できたといわれています。多くの人が歌舞伎を演じ、浄瑠璃を語ったこの村では、幕末から明治にかけて村内に点在する神社やお堂の境内13カ所に芝居専用の舞台が、神社の前宮などの名で建てられたという記録があり、現在は7つの舞台が残っています。
 近年、春と秋の定期公演でもっぱら使用されているのは、大磧神社の舞台(下市場)と市場神社の舞台(塩河)の2つです。いずれも間口六間・奥行き四間の舞台で、回り舞台があり、上手に太夫座が付設されています。

 耕地の少ない急峻な山々に囲まれたわずかな平地に生きる村人は、食を切り詰めてまで歌舞伎のための舞台を建立してきました。当時わずか数十戸の集落にこんなににも舞台が造られたのは驚きです。今も残るこの舞台には、大鹿村の人々の心意気と底知れないエネルギーが受け継がれています。

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